第262回 京大総長、ゴリラから生き方を学ぶ/山極 寿一

皆さんこんにちは。タスキー株式会社の大学です。
今回ご紹介する本は「兄弟総長、ゴリラから生き方を学ぶ」です。

こちらの本は霊長類学者で、第26代京都大学総長の山極寿一さんが書かれた一冊です。
霊長類学者の著者が、霊長類の研究、そしてアフリカでのフィールドワーク、京都での学びを通じて身に付けた、人とのコミュニケーションや信頼関係を築く心構え、生き方を綴ったエッセイ的な内容になっています。

 非常に学びになる内容が多く綴られていますが、中でも、霊長類の習性や特徴を比べて「言葉」誕生の背景に迫った章が印象的だったので紹介します。
山極さんはニホンザルの調査から霊長類の研究をスタートしました。ご存じの方も多いかもしれませんが、サルは上下関係を非常に気にする生き物です。序列が上のサルをガン見することは宣戦布告を意味します。
山極さんがジャングルでの調査でゴリラと出くわした際、相手を刺激しないように目線を逸らせました。サルはこれで敵意がないことをわかると立ち去ってくれるのですが、このゴリラは近づいてきて、顔を覗き込んできました。力では到底敵わない生き物が数センチの十距離にいる危機的状況で、山極さんは頑なに目線を逸らし続けます。するとゴリラは不服そうにポコポコとドラミングをして不服そうにジャングルへ帰っていったそうです。
著者はゴリラのこの行動に違和感を感じ、改めてゴリラを観察してみると、遊びや交尾の誘い、ケンカの仲裁に入る際に相手の顔を覗き込み、視線を数秒間目線を合わせる行動が観察できたそうです。これはサルでは観察されなかった行動でした。さらにその後の調査では、より人に近いチンパンジーも同様に覗き込み行動をすることが分かりました。
この覗き込み行動が、サルとヒトに近い大型の類人猿を分ける重要な現象と著者は述べます。

 ヒトの場合、親子や恋人同士など、覗き込みに類する行動がみられるのは特別な関係性に限られます。ヒトは、ゴリラやチンパンジーとは違い、少し離れて自立性を保つかかわり方を選びました。こうした過程を経て、ヒトは「一定の距離を保って向き合う」という状態を獲得しました。そして、この状態での意思疎通を補完するために言葉が生まれたのではないかと著者は述べます。

 動物との出会いでは受け入れられるか拒否されるかのどちらかですが、人の場合は言葉を用いて受入れも拒否もしないが、情報をやり取りする、その中途の関係を維持しながらいろいろな人と付き合い、「好き」とか「嫌い」とか「どちらでもないが貴重」といった様々な社会的な関係を作ることができたのではないかと続けます。

 ヒトの目は他の霊長類と比べて白目が大きいという特徴があります。これは目線の動きを相手に伝えるためではないかと言われています。ヒトは、目線の動きで相手の感情を推し量ることができ、無意識のうちに繊細な動きを読んでいて、それが社会交渉に役立っています。

 私自身も苦手意識があるのですが、メールやチャットといった文字だけのコミュニケーションでは、言葉の一つ一つから伝わる意味や要点だけを、非常に狭くやり取りすることになります。相手の本心や感情、社交技術などが抜け落ちてしまいますが、こういった意味から漏れるものこそが重要なのではないでしょうか。言葉は人間が手にした最後のコミュニケーションツールで、登場してから約数万年と、人類の700万年という進化史から見ると極めて最近にあたります。人間はまだ言葉だけですべてを余すことなく表現するには使いこなせてはいないのかもしれません。だからこそ、言葉に頼りすぎず、対面とのバランスを考えるのがベターな選択といえるかもしれません。私も日々のコミュニケーションの取り方を見直す良いきっかけとなりました。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

タスキー株式会社 大学佳太朗

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