本書は経営の神様ともいわれた松下幸之助の晩年の22年間、常にその傍らにあって直接に薫陶を受けてきた江口克彦氏が、松下の経営のエッセンスともいえる考え方を20項目にまとめ上げた、社長はもちろん、部下を持つ者全員の心得集である。
著者は、以下のように述べています。
「経営発展の大事な要因は、目に見える要因と目に見えない要因の二つある。
目に見える要因とは製品、技術、生産方法、販売方法、数字、あるいは工場や組織、体制、制度というものである。目に見えない要因とは指導者の使命感、哲学、考え方、雰囲気などである。-中略-この二つの要因がバランスよく機能してはじめて、経営の発展も可能になるのだが、晩年の松下幸之助を見てきて、企業を発展させる力は、目に見えない要因により大きなウエイトがあるように思われてならない。」
松下幸之助氏は松下電器を創業して間もない頃、250年後の夢をこう社員に語りかけていたという。
「松下電器の生産した電気製品を通じて日本を素晴らしい国にしたい。そのような願いの実現を我々が十世代にわたって熱心に目指していくならば、250年後には相当の成果が上がるだろう。私は松下電器をそういう会社にしたいんだ。」
これについて、著者は社員に夢を与えることの大切さについて、こう述べている。
「こんな壮大は夢を与えられた社員は幸せである。なぜなら、夢と志を示すことによって、社員の中にはプライドが生まれる。『私は素晴らしい夢を持った会社の一員なのだ』という誇りを持つことができる。誇りを持つことによって自信が生まれ、苦しい峠を登り切る強さも生まれてくる。そして大きく気高い夢は、人生の素晴らしさも教えてくれる。」
壮大な夢は、とても一代で叶えられるものではない。次の代、またその次の代へと受け継がれ、いつか到達するものである。会社は、あくまでも社員の人間的成長の場であるとするならば、このように高い理想を与えられ、その実現に向かって懸命に努力することのできる社員は、大きく人間的成長を遂げ、豊かな人生を送ることができるのだと思う。
この本を読んでいて、舩井幸雄先生の逝去の報を受け、一番弟子であった、我が師、佐藤芳直が言った言葉を思い出した。「師の屍を乗り越えて、師の見たかった景色を見たい。師の求めん所を求めん。」
サクセスエール税理士法人 公認会計士 青谷麻容子