こんにちは。 タスキー税理士法人の青谷麻容子です。 暦の上では秋となり、空を見上げると、うろこ雲やいわし雲といった秋の雲が見られるようになりました。ここ仙台でも、夜は涼しく過ごしやすくなり、まさに読書の秋です。 今回ご紹介する本は、公認会計士試験の予備校時代の恩師、公認会計士の田中靖浩先生のかなり前の著書です。決算書の読み方の本は数多くありますが、ここまで分かりやすくシンプルに説明した本はないのではないかと思います。 決算書の読み方が分からないという方への入門書としてはオススメです。 一般的に、経理の人=数字に強い。非経理の人=数字に弱いというイメージがありますが、著者は経理の人と非経理の人の「数字の能力」は違うので、同列に比較してはいけないと言います。そこで、一口に数字といっても、「作る・読む・活かす」という段階があるとして、数字の勉強に関する全体像を図解で示しています。 ①「数字を作る」数字を記録・計算して決算書を作る。この「作る」のが経理。よって、簿記の知識が必要。 ②「数字を読む」決算書の数字が表しているものは何なのか、これを読み取ることができる力。 ③「数字を活かす」これは「読む」という基本に対する応用分野の位置づけで、管理会計、経営分析、財務といった様々な内容が含まれます。
このように、世間では「作る・読む・活かす」がキチンと区別されていないため、その不理解と誤解によるトラブルが沢山起こっています。例えば、銀行OBを経理担当としてスカウトするが、失敗するパターンが多いとのこと。なぜなら、銀行マンは「自分で決算書を作った経験がない」からです。「読む」ことはあったし、経営分析の経験もあるけど、「作る」プロではないからです。 また、「会計=accounting」「財務=finance」の区別があいまいな方もいらっしゃるかもしれません。 「会計」はおカネに関わる「記録・計算・報告」全般の内容で、経理が担当。 「財務」はおカネの「調達と運用」をうまく管理することで、財務が担当。 イメージとしては、会計が基礎で、財務が応用。会計が守りで、財務が攻めという感じ。 よって、経営を専門的に学ぶMBAスクールでは、入学直後にまずaccountingを学び、その後にfinanceを学ぶプログラムが多いようです。さらにaccountingは「financial accounting=財務会計」と「management accounting=管理会計」に分かれ、財務会計は株主・債権者・投資家といった外部向けで過去思考の会計。管理会計は、儲けを増やすために経営者が利用する内部向けで未来志向の会計。 財務会計は「作る」「読む」に関係し、管理会計と財務は「活かす」に関係します。 このように、経理と財務の仕事はかなり大きく違い、求められる人物像もある意味で正反対。経理は内なる仕事でコツコツ仕事をこなすような堅実な人が望ましい。一方、財務は、相手のある仕事で銀行や証券会社との交渉など外に出ることも多く、いろんな仕組みを思い付くような発想力と、外部とのタフな交渉に耐えられる交渉力が必要。こうして見ると、経理と財務は正反対と言えるほどの違いです。 では、どんな人が、どんな順番で数字を勉強すればいいのでしょうか。 営業マンであれば、「読む」ところからスタートし、デキる営業マンなら、売上・コスト・利益の関係を計算しながら相手と交渉する余裕が欲しいので「活かす:管理会計」も必要。スゴい営業マンになると取引先の与信管理にも目を光らせるので「活かす:経営分析」も必要。 経理マンも、まずは「読む」ことをマスターし、その後は本業の「作る」ための簿記の勉強。 SEは理系イメージが強いですが、以外にも簿記の知識が必要です。というのもシステム構築に数字の作り方の知識が不可欠で、加えてお客様のリクエストによって管理会計のシステム構築をすることもあるため管理会計の勉強も必要なので、「読む」→「作る」→「活かす:管理会計」 という勉強の順番です。 経営企画は、将来の利益計画といった「攻めの数字」を扱うので、「読む」ことができるのは当然のこと、その後「活かす:経営分析&財務」が必要。 中小企業の経営者は、お客様を相手にした仕事だけでなく、調達・運用全部に責任を負うので、「読む」→「活かす:財務」の勉強が必須です。 以上、色々な仕事の人を想定して、数字を学ぶ順番を考えてみると、すべての人に共通するのは、「読むことから始めた方がいい」ということです。しかし、世の中には「読む」勉強についてのいい教材が本当に少ない。この「木を見て森を見ず」の状況を打開するために、著者が考えた数字をつかむための3つの図形があります。図なので、詳しくは本書を見ていただくのが一目瞭然です。 ①数字の基本は点と線。 全ての数字は必ず「点=時点」か「線=期間」のどちらかの性質を持っています。つまり、ストックとフロー。「線=原因=損益計算書(PL)」「点=結果=貸借対照表(BS)」 ②右から入って、左でグルグル BSのキモは「調達と運用」です。右は「どうやってカネを集めたか」他人資本(負債)か自己資本(資本)か。会社は右で調達したおカネを左の資産めがけて投資します。その左側に投資されたお金は「投資→回収→投資→回収」を繰り返し、資産の中でグルグル回転します。これを運用と言います。 そして、このBSには3つのパターンしかなく、図形化したBSを見れば、うまく行っている会社、うまく行っていない会社、債務超過の会社が一目瞭然です。 ③三角形(変動費)と四角形(固定費) 管理会計による利益シミュレーションでは、「売上・コスト・利益」の関係を明らかにしていきますが、この関係を3つ目の図形で示しています。 図は本書を見ていただければと思いますが、結論としては、変動費中心型は売上増減に応じてあまり利益が変動しない「ローリスク・ローリターン型」、固定費中心型は「ハイリスク・ハイリターン型」ということです。 長々となってしまいましたが、本書で示されている「点と線」「図形でつかむ貸借対照表」「コスト・利益図表」を活用すれば、会社の数字を読むのは楽になるはずです。この計数感覚が身につくと、数字を見て驚いたり、怒ったり、感動したりできるようになるそうです。 そして、私たち一人ひとりの「会計力」アップが、会社をよくすることに繋がり、ひいてはこの国をよくしていくことに繋がると信じていると田中先生は仰っております。 あの出口の見えない長いトンネルの中をひたすら歩いていたような公認会計士受験生時代、田中先生の授業はただただ楽しかったことを思い出しながら、なぜ公認会計士を目指したのか、初心にかえることができました。 最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。 タスキー税理士法人 公認会計士 青谷麻容子 参照:数字は見るな!3つの図形でわかる決算書超入門/田中 靖浩