第373回 線は、僕を描く/砥上 裕將

こんにちは。タスキー税理士法人の青谷麻容子です。

この原稿を書いている6月5日は二十四節気のひとつの「芒種(ぼうしゅ)」に当たります。稲や麦などの穀物の種を撒く時期で、ちょうど梅雨入り時期と重なり、高温多湿になるそうで、本日の東京は27度と蒸し暑い一日でした。紫陽花や蛍が美しい季節ですね。

さて、今回ご紹介する本は、『線は、僕を描く』(講談社)です。
本書は、水墨画家の砥上裕將(どがみ ひろまさ)氏によるデビュー小説で、2019年に第59回メフィスト賞を受賞しました。
多くの読者に感動を与え、漫画化、さらには映画化されています。
小説を映画化すると原作のファンからはギャップがあるなど、評価を得にくいものですが、この作品は、小説、漫画、映画の全てが素晴らしい。と聞いたので、手に取ってみました。

主人公の青山霜介(あおやま そうすけ)は、両親を事故で突然失い、深い悲しみの中で自分の感情を閉じ込めて生きています。
しかし、ひょんなことから出会った水墨画の師匠・篠田湖山に気に入られ内弟子となります。
生きる意味を見失った無気力な青年が、師匠に導かれ、未知の世界でライバルと切磋琢磨し、「線」を描くことで、次第に恢復していく物語です。

水墨画は、真っ白な紙に、筆先から生み出される「線」のみで描かれる芸術です。
描くのは「自然(命)」。目の前にある「命」を白と黒の墨の濃淡だけの世界で表現します。しかも一発描きなので、修正はききません。
短時間の間に集中して見せたい世界を表現しなければならないため、嘘がつけない。その人自身が現れてしまうのが水墨画だそうです。

これは映画を見ていただければ分かるのですが、水墨画を描くシーンはどれも美しく、力強く、静寂と躍動が交差し、黒と白というシンプルな世界なのに、まるで色彩豊かな絵が見えてくる不思議な感覚がありました。

ド素人の彼がなぜ巨匠の目に留まったのか。両親から授かった器用さと真面目さか。
読み進めていくうちに、それは彼の素直さという美点ではないかと気づかされます。
墨のすり方から既につまづき、何度すってもOkが出ません。それでも腐ることなく、師匠に言われたことを実直に実践し、時に反省し、自発的に鍛錬を重ねていく。
これは水墨画に限らず、何かの道を究めようとする時に大切な資質のように思います。

そして、物語の終盤、湖山が見抜いたのは、そうした資質だけではなかったことが明かされます。
最初に題名を見た時からとても気になっていた、なぜ「僕は、線を描く」でなく、「線は、僕を描く」なのか。読み終わった今、この題名を見ただけで、グッと来ます。

もうすぐ梅雨入りの時期。晴耕雨読にピッタリの季節に、本書を手に取ってみてはいかがでしょうか。Amazonプライムで映画も見れますので、是非ご覧ください。

最後までお付き合いいただき、ありがとうございます。

タスキー税理士法人 公認会計士 青谷麻容子

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青谷 麻容子

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